あらすじ
異世界へ召喚された黒瀬廉が得た能力は、《自己暗示》。
恐怖を和らげ、痛みを誤魔化すだけの外れ能力――そう判断された廉は、勇者としての価値がないと切り捨てられ、最低限の装備すら与えられないまま魔物の森へ捨てられた。
猛毒の虫に刺され、死が迫る中、廉は冷静に能力を試す。
「俺には、この毒が効かない」
黒く変色していた腕が元に戻った。
「俺の傷は治っている」
裂けた皮膚が塞がった。
「俺は、あの魔獣より強い」
次の瞬間、巨大な魔獣は一撃で地に沈んでいた。
《自己暗示》とは、自分自身に関する現実を、言葉どおりに書き換える力だった。
使用回数なし。
魔力消費なし。
効果時間なし。
強化上限なし。
説明のどこにも、制限は一つも書かれていない。
それでも廉は、自分を捨てた王国へ復讐に戻ろうとはしなかった。
「契約も報酬も提示しなかった相手に、関わる価値はない」
彼が求めるのは、英雄の称号でも世界平和でもない。
誰にも命令されず、安全で快適に、自分の意思で生きられる自由。
しかし王国も、教会も、勇者も、魔王も、神々さえも、無制限の力を持つ廉を支配しようとする。
王族だから何だ。
神だから何だ。
自分が従うという契約は、どこにも存在しない。
これは、無制限の《自己暗示》を得た冷徹な現実主義者が、自分を縛ろうとするすべての権威を否定し、己を最強へ書き換えていく物語。