あらすじ
本を読むことだけが、イリゼナ・ベルシュレイドの呼吸だった。
けれど嫁ぎ先では、その教養を「女の可愛げをなくすもの」と義母に嫌われ、夫には「難しい話ばかりで疲れる」と疎まれた。夫が夢中になったのは、字を読むのが苦手で、知らないことを恥じずに笑う愛人。実家までもが「本ばかり読んでいるから夫に逃げられるのだ」とイリゼナを責める。
耐え続けた彼女は、ある日、夫の不貞と婚家の財産流用の証拠を自ら整理し、静かに離縁を成立させる。
行き場を失ったイリゼナが選んだのは、社交界ではなく王宮書庫。そこで彼女を見つけたのは、王都中から「変人侯爵」と噂されるサヴィアン・ノクトヴァルトだった。
古文書の修復、禁書目録の整理、失われた条約文の解読。
誰にも理解されなかった知識が、彼の隣では必要とされる。
「君の読む声は、夜明けより正確だ」
変人侯爵は、イリゼナの知性を愛し、沈黙を尊び、傷ついた心を急かさない。
これは、お飾り妻だった女が、本棚の奥で自分の名前を取り戻し、知識ごと愛されるまでの、静かで濃い恋の物語。