あらすじ
~登場人物の紹介とあらすじ~
i)登場人物の紹介
【ズオエイイ】
翡翠港町シヘにある修理場の十七歳社長。婚約を解消され、貴族の暮らしを捨てて祖父の工房を継いだ。物に残った歪みや負荷を読み取る「芯読み」の力を持つ。恋愛相談は受け付けないが、壊れた道具と困っている客は決して見捨てない。
【クリススオフエル】
刺激を求めながらも、危険な場面では誰より冷静になる元空舟操縦士。ズオエイイの仕事を奪うことなく、彼女が無理をする前に作業灯を消す。修理場の仕事を手伝ううちに、互いを急かさない信頼が育っていく。
【チャンズ】
修理場の帳簿係。数字を見るとすぐに泣くが、不正や計算違いを見逃さない。涙で書類を濡らさないため、机にはいつも吸水布が置かれている。
【シエルア】
動物用の義足や馬具を作る職人。翼を怪我した小型竜を世話しながら、動物用固定具の技術を灯台修理にも役立てる。
【ベリナ】
眠ったまま町を歩き、知らない場所へ修理部品を運んでしまう女性。その足取りは、十五年前に起きた「無限の夜」と、ロータリーに置かれた赤い自転車の謎へつながっている。
ii)あらすじ
「女主人に修理油の匂いは必要ない」
婚約者の家からそう告げられた十七歳のズオエイイは、涙を流す代わりに、壊れていた扉の蝶番を直して屋敷を去った。
故郷の翡翠港町シヘへ戻った彼女は、亡き祖父の修理場を株式会社式の商会として再建する。新しい看板に書き加えたのは、たった一つの注意書き。
「恋愛相談は受け付けません。修理相談は朝七時から」
鍵、鞄、革小物、動物用具、空舟部品。ズオエイイのもとには、壊れた道具と、それぞれの事情を抱えた客が集まってくる。
泣きながら帳簿を守る青年、翼を怪我した小型竜、眠そうな元操縦士。個性の強い仲間たちと修理場を切り盛りする一方、町のロータリーには、持ち主の分からない赤い自転車が毎朝置かれていた。
祖父の工具箱から見つかった革張りの仕掛け財布。中に残されていた古い鍵、搭乗券、ジェイダイトの欠片。そして、十五年前の魔力災害「無限の夜」で姿を消した少年整備士ノアの名札。
赤い自転車の謎を追ううちに、ズオエイイは停止した灯台、閉鎖された飛行場、町に残る悲しみと向き合うことになる。
利益を優先して生活修理を切り捨てる商会、飛行場再開を恐れる地主、不正な鍵開けの濡れ衣。次々と問題が持ち込まれても、ズオエイイは工具を置かない。
恋愛に人生を預けることをやめた少女が、壊れた道具を直し、仲間の働く場所を守り、夜に閉ざされた港町へ十五年ぶりの朝を取り戻す。
恋愛はまだ受付時間外。
けれど、明日の修理台には、信頼できる誰かが並んで立っている。