あらすじ
昭和二十年、レイテ島。玉砕を命じられた小隊は、次々と死んでいく。
生き残ったのは、答えを出さなかった者たちだけだった。
なぜ徴兵されたのか。なぜ命令に従うのか。なぜ人間なのか——鴨下衛一等兵は、あらゆる問いの前で立ち止まる。答えを出さないまま、仲間を埋め、銃を置き、収容所で目を覚ます。
わからないまま、腹だけは減り続ける。
新潟の祖母が作った冷たい素麺、東京で仕えた作家との対話、戦友たちのささやかな癖——生き延びた者の記憶は、戦争の意味ではなく、日々の断片としてよみがえる。
玉砕を否定するでも、肯定するでもなく。ただ、生き延びてしまった一人の男が、判断を保留したまま次の一歩を踏み出すまでを描く、静かな戦争文学。