あらすじ

夫は、仕事一筋の人だった。 結婚して同じ家に暮らしているはずなのに、顔を合わせる回数は数えるほどしかない。結婚前に約束した新婚旅行さえ、出張を理由に何度も先延ばしにされた。 今回は、もう夫を待たなかった。私は一人で月白温泉郷へ向かった。 連れ立って歩く観光客の間を一人で歩きながら、何気なくインスタを開く。すると、夫の秘書である白石寧々が投稿したばかりの写真が目に入った。 写っているのは、まさに私がいる温泉街だった。 キャプションには、こう書かれていた。 「某氏が撮ってくれた今回の写真、前に海で撮ったものより上手かも。褒めてあげよう」 深く考える間もなく、聞き慣れた声がすぐ近くから聞こえてきた。 「もう少し角度を変えてよ。こっちからのほうがきれいに見えるから」 「嘘つけ。どの角度から撮ってもきれいだろ」 顔を上げると、出張中のはずの夫がカメラを構え、真剣な表情で寧々を撮影していた。 私はスマートフォンを取り出し、二人の姿を写真に収め、そのままインスタへ投稿した。 「旅先で偶然お会いしました。どうか末永くお幸せに」 すぐに夫から電話がかかってきた。 「寧々は写真を撮ってほしいと言っただけだ。どうしてわざわざ誤解を招くような投稿をするんだ?」 「今すぐ消せ。家に戻って待っていろ」 私は月白温泉郷を離れる特急列車の中で、小さく笑った。 「それは無理」 「どういう意味だ?」 「私が買ったのは、家に帰るための切符じゃないの」 ……

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小説を読もう2026/07/25
  • 現在の作品出張中の夫が、秘書と温泉で甘いデートをしていた