あらすじ
高校二年になった春、麦(むぎ)は教室の扉をくぐれなかった。
クラス替えの喧騒、制服の締め付け、みんなが当たり前に呼吸している「普通」——そのどれもが麦には重すぎて、校門の前で立ち尽くしてしまう。
行き場を失った麦が唯一足を運べるのは、祖母が入院している病院だけだった。そこで出会ったのが、日向(ひなた)。
日向はどこか大人びていて、笑い方も、話し方も、麦の知らない色をしていた。曇った窓の外を見ながら優しく微笑む彼に、麦は少しずつ惹かれていく。
教室にすら行けない自分が、誰かを好きになっていいのか——そんな迷いを押し流すように、麦の中で日向の存在は日に日に大きくなっていった。
そんなある夜、二人は病院の屋上で、みずがめ座流星群を見る約束をする。
けれど当日、屋上に日向は現れなかった。
一人、夜空を見上げながら流れる星を数える麦。約束を破られた寂しさと、言いようのない不安が胸に広がっていく。
そんな麦を見かねて、幼なじみの春季(はるき)が、ずっと黙っていた事実を口にする。
——日向の余命は、半年しかないこと。
告げられた瞬間、麦の中で何かが音を立てて崩れる。それでも麦は、日向のそばにいることをやめない。
だが日向にも、麦には言えない秘密があった。彼は知っていたのだ。春季が、ずっと麦を想い続けていることを。
自分にはもう時間がない。だったら、麦を幸せにできるのは春季しかいない——そう決めた日向は、二人の距離を縮めようと、柄にもなく不器用なキューピッド役を買って出る。自分の想いには蓋をしたまま。
しかし春季の胸にも、一つの秘密が重くのしかかっていた。
日向が、麦に恋をしていること。
自分が身を引くべきだとわかっているけれど、それは本当に日向が望んでいることなのか——春季の中で、友情と恋心と、誰にも言えない優しい嘘が、静かにせめぎ合い始める。
教室にすら行けなかった少女が、誰かを想う強さを知っていく物語。
残された時間の中で、三人はそれぞれの答えを探していく