あらすじ
「兵士C」——ゲーム開始三十分で、背中に矢を受けて退場する。名前も台詞もないモブ。それが、俺の転生先だった。
ところが、ステータス画面を開いてみたら、全項目が9999でカンストしていた。職業欄は bug_test_dummy_07。開発が検証に使ったまま、出荷され忘れた捨てキャラだ。前世でゲーム会社のQAデバッガーをやっていた俺には、それが何を意味するか、すぐに分かった。
命も、才能も、寿命も、全部余り物。
だったら、使ってしまってもいいだろう。
今夜討たれる極悪令嬢——"氷血の魔女"ディアーナ・オールヴェイン。彼女が悪ではないことを、原作を三千時間やり込んだ俺だけが知っている。世界のために独りで汚名を被り、誰にも看取られず、笑って死んでいくはずだった女だ。
だから俺は、勇者の聖剣の前に飛び出した。どうせ捨てる予定だった命だ。痛くも痒くもない。
——そのつもりだった。
死ねなかった。
そして目を覚ました俺を待っていたのは、感謝ではなく、覚悟を奪われた令嬢の、烈火のような怒りだった。
「あなたは、自分の命を、なんだと思っているの」
軽く命を差し出すたび、討伐した側からは崇拝され、救われた側は静かに壊れていく。名も告げずに去ったはずが、行く先々で伝説だけが勝手に肥え、気づけば両陣営から探されている。
この世界の結末を、俺は知っている。仲間が一人ずつ世界に捧げられ、最後には誰も生き残らない"空っぽの勝利"。攻略界隈が"世界葬送"と呼んだ、たった一つしかないエンディングだ。
全部、書き換えてやる。
——ただし。その残酷な仕様を組んだ"神"が、消し忘れのバグである俺を、静かに数え始めていることを。このときの俺は、まだ知らない。