あらすじ
幼い頃から毎年一緒に花火を見てきた「俺」と紗季。しかし中学三年の冬、紗季は突発性難聴により一部の音を失い、「もう花火を楽しめない」と夏祭りから距離を置くようになる。理由を知りながらも踏み込めず、関係は変わらないまま時間だけが過ぎていった。
高校最後の夏、「俺」はもう一度だけと紗季を祭りに誘う。何度も断られてきた過去を越え、ようやく紗季は「行ってみないとわからない」と小さく前を向く。当日、会場の音や人混みに緊張しながらも、紗季は花火を見つめる。最初は失われた音を探すように耳を澄ませるが、やがて光や振動、周囲の気配へと意識が移っていく。
夜空に咲く光と、足元から伝わる振動。そのすべてを通して、紗季は“音がなくても届くもの”を見つけていく。「今年の花火、ちゃんと届いた」と涙ながらに笑う紗季。その姿を見て、「俺」は失われたものではなく、新しい形で世界と繋がることの意味を知る。
花火の後、静かな夜空の下で二人は来年の約束を交わす。変わってしまったものと、変わらずに残るもの。その両方を抱えながら、二人はこれからの時間へと歩き出していく。