あらすじ
恩師のデータ捏造スキャンダルに巻き込まれ、研究者としての道を閉ざされた佐伯明日香(28)。学界から追われた身で受けられる「最後の観測プロジェクト」のために、山奥の木曽天文台を訪れる。
管理人の葛城蓮(38)は、かつて同じ研究室にいた先輩で、捏造の事実を知りながら学界を去った元研究者だった。一ヶ月の共同生活のなかで、明日香は蓮が抱える秘密と向き合い、やがて彼の孤独と、自分自身の傷が鏡像であることに気づく。
変光星 V844 Her の観測を続ける夜ごと、二人の距離は縮まっていく。やがて嵐の夜の暗闇のなかで、明日香は蓮に「なぜ知っていて黙っていたのか」と問いかける。蓮は初めて、自らの選択と後悔を語る。その告白が、二人の関係を決定的に変えた。
観測の最終夜、明日香はついに変光星の増光パターンを捉える。それは彼女がもう一度、自分のために星を見る決意の象徴だった。蓮もまた、五年ぶりに山を降りる覚悟を固める。