あらすじ

蝉時雨が骨の髄まで響くような、狂おしい猛暑の日だった。 汗で湿った右手の指先に、チクリとした痛みが走る。見下ろすと、人差し指の爪と皮膚の隙間に、緑色の小さな棘が刺さっていた。爪楊枝でほじくろうとした瞬間、棘はズルリと指の奥へ滑り込み、消えた。 翌日、痛みが消えた代わりに、指先が妙に重い。爪の根元を透かしてみると、皮膚の下で何か緑色の固まりが脈打っていた。サボテンだ。あの時刺さったのは棘ではなく、生きた種子だったのだ。 「オート、オート……」 真夜中、耳元で掠れた声が聞こえて目が覚める。声の主は、自分の右腕からだった。腕の皮膚が青裂け、緑色の丸っこい肉茎が皮を破って顔を出している。サボテンは、車が自動運転(オート)で進むように、意識とは無関係に私の肉体を侵食し、骨を土壌にして急速に育っていた。 「オート、オート……」 声の正体は、心臓の鼓動に合わせてサボテンが発する機械的な駆動音だった。血管を吸い上げ、肉を養分にし、私は意志と反してゆっくりと「植物」へ自動変換されていく。逃げようにも、足からはすでに細い根が畳を突き破って伸びていた。 真夏の強い日差しが部屋に差し込む。全身を突き破る無数の棘が、太陽の光を浴びて歓喜の音を鳴らす。 カンカン照りの部屋の中、意識が青緑色の闇に溶けていく直前、私の口からこぼれたのは、人間のものではない乾燥した駆動音だった。 「オ……ト……」 酷暑の部屋にはただ、立派に花を咲かせた人型のサボテンと、響き続けるオートの音だけが残された。

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小説を読もう2026/07/23
  • 現在の作品指の先からサボテンが生えてきたら