あらすじ

和泉棗は、老舗上生菓子店のひとり娘。 幼い頃から「看板娘」として写真を撮られ続け、完璧な笑顔の作り方だけを覚えてきた。店を継ぐことは決まっている。ただし棗に割り振られたのは"顔"の役割だけで、意匠を考えることも、自分の菓子を作ることも許されていない。誰にも見せないスケッチ帳の中にだけ、作れないままの意匠が溜まっていく。 商店街の記録事業でやってきた撮影担当・東雲澪は、取材が終わって誰もいなくなった座敷で、棗の笑顔が落ちる瞬間を見てしまう。 「——今の、撮ってないから」 澪は淡々とそう告げて、こう続けた。次は、ちゃんと撮らせて。今のじゃなくて。 見抜かれる側になったのは、初めてだった。 撮ろうとすると消えてしまう顔を追う澪と、見られることに慣れすぎた棗。ファインダー越しの距離が少しずつ縮まっていく一方で、台所には開けられないままの封筒が置かれ、襲名披露の日取りが近づいてくる。 誰にも見せられないものを抱えた二人が、それでも互いの"見せない場所"に手を伸ばす、ひと夏から冬にかけての物語。

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カクヨム
カクヨム2026/07/23
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