あらすじ
専門学校を卒業した十九歳の佐藤翔太は、東京の小さなソフト開発会社に新人プログラマーとして入社する。
エラーに怯え、先輩のレビューに打ちのめされながらも、コードを書くことだけはやめられない。壊れたものを分解し、直す。その手触りの中でしか、自分の価値を確かめられなかったからだ。
やがて翔太は、夜の本番障害で“消えるはずのないログ”に遭遇する。
座標のずれ、境界の損傷、意味不明のコメント――それらを追った先で、翔太は異世界へと転移する。
そこは剣と魔法の世界でありながら、実際には古代文明が残した巨大な“魔法基盤”の上に成り立つ世界だった。結界、転移門、治癒術、記録体系。すべては保守されなければ崩れる。翔太は神殿保守局の術官ミレイアたちと出会い、世界そのものの障害対応へ巻き込まれていく。
だが、世界を蝕んでいたのは単なる故障ではなかった。
魔法戦争の時代、支配と統治のために世界法則そのものが書き換えられ、王都や中枢施設が優先される一方で、辺境の村や無名の人々は「失われてもよい場所」として設計されていたのである。
地図から消え始める村。記録から抜け落ちる人々。壊れるのは世界だけではなく、それを保守する人間たちの認識と記憶でもあった。
帰還の道があると知りながら、翔太は選択を迫られる。
元の世界へ戻るためには、この世界の深層へ触れなければならない。だが深く接続するほど、故郷の記憶は摩耗し、帰還できる“自分自身”が薄れていく。
それでも翔太は、ミレイアたちと共に、世界の偏った優先順位を書き換えるため深層へ降りる。
コードの向こう側にあったのは、成功でも英雄譚でもない。
誰かが明日を生きるための、目立たない足場だった。
壊れた世界を前に、それでも「直すこと」をやめられない者たちの、労働と記憶と選択の物語。