あらすじ
王国の片隅で暮らす青年、レイン・アスターには、幼い頃から他人には見えないものが見えていた。
誰もいない墓地で話し続ける老人。
焼け落ちた屋敷の窓から、毎晩外を眺めている少女。
古戦場で、終わったはずの号令を繰り返す騎士たち。
それらは魔物でも、精霊でもない。
死んだ後もこの世界に残り続ける、幽霊だった。
この世界では、死者の魂は女神のもとへ還ると信じられている。幽霊の存在を口にすることは、神殿の教えに反する不吉な行為とされていた。
そのためレインは、自分の力を隠して生きてきた。
しかし、故郷の共同墓地で起きた怪事件をきっかけに、彼は一人の少女の幽霊と出会う。
少女は、自分の名前も、死んだ理由も覚えていなかった。
ただ一つ、彼女は毎晩、遠くから聞こえてくるという。
この世界の誰も鳴らしていないはずの、鐘の音を。
同じ頃、王国各地で幽霊の目撃が急増していた。
死んだことに気づかず働き続ける職人。
百年前の約束を守り続ける兵士。
自分を殺した犯人を、別人だと思い込んでいる貴族。
廃村に独自の社会を築き、生者を拒絶する亡霊たち。
レインは、幽霊を退治するのではなく、彼らの言葉を書き残すことを選ぶ。
死者一人ひとりに質問し、食い違う証言を照合し、残された記録や遺品を調べ、怪異の裏に隠された真相を明らかにしていく。
やがて彼は、幽霊が単なる「成仏できない死者」ではないことに気づく。
幽霊には幽霊の暮らしがある。
人間関係があり、争いがあり、秘密があり、死者だけが知る歴史がある。
そして、すべての幽霊が成仏を望んでいるわけではない。
なぜ死者は、この世界に残るのか。
成仏とは、本当に救いなのか。
神殿は、なぜ幽霊の存在を否定するのか。
存在しない鐘の音は、何を告げているのか。
死者の声を聞く青年は、一冊の聞き書き帳を手に、誰も知らなかった幽霊の謎を追い始める。
これは、生者の歴史には残らなかった真実を、死者自身の言葉によって記録する物語。
そして、一人の青年が世界で最初の「亡霊聞き書き人」となるまでの物語である。