あらすじ
三日後、王都は滅ぶ。
王立相互保険院の三等査定官ノエラ・メルヴの机に、まだ起きてもいない災害の請求書が届いた。事故日は三日後。対象は全住民二十八万人、全建造物、国境結界――損害は《王都全損》。しかも原因欄の先頭には、十三年前に母を奪った「焦げないパン窯」の事故番号が記されていた。
規則どおりなら、未来日付の請求は隔離して終わり。だが縮災模型が映したのは予言ではなかった。すでに成立し、動き始めた滅亡の因果だった。
残された猶予は七十二時間。ノエラは例外条項を発動し、修繕師ルフ・カデルと王都を駆ける。証拠を一行ずつ積み上げるノエラとは正反対に、ルフは人を救うためなら原因も証拠もためらわず壊す男だった。数字で命を守ろうとする女と、目の前の命のため数字を捨てる男。最悪の相棒は、危機のたびに互いにだけ背中を預けていく。
焦げない窯、涸れない井戸、痛みを眠らせる硝子、崩れゆく北橋、未来を断定する号外、国を守る塔。一見ばらばらな六つの事故は、なぜ一つの破滅へつながるのか。追うほどに、正しい規則は誰かを見捨て、善意の修理は別の誰かの傷を隠していく。
なぜ未来の請求書は成立したのか。母の死はなぜ十三年後の王都滅亡に組み込まれたのか。そして最後の一分、ノエラが差し戻すのは一枚の請求書か、それとも決められた未来そのものか――。