あらすじ
帝都大学附属病院の心臓外科医・黒木誠、四十五歳。幼い日に姉を手術台で喪い、無免許の闇医者に憧れて医師になった彼には、誰にも言えない才能があった。開いた胸の奥、拍動する心臓に刻まれた「その人間の来歴」を読み取ってしまうのだ。顔は笑える。言葉は飾れる。だが、心臓だけは嘘をつかない――。
法が裁けぬ罪を、彼は手術台の上で、静かに裁いてきた。神のいない手術室で、自らが神になろうとして。だが、その均衡は、彼を追う一人の看護師と、彼を崇める一人の研修医によって、少しずつ揺らぎ始める。そしてある日、三十七年前のあの日へとつながる患者が、彼のメスの前へ運ばれてくる。
憧れは、人を、どこまで連れていくのか。生と死、家族、師弟、そして組織の奥へと沈んでいく、後味の悪い医療イヤミス長編。