あらすじ
工業の国アイゼスブルク。ドワーフの工房街でただ一人、人間で自分の看板を掲げた親方ゲンには、前の世があった。町工場で鉄を削った職人が、女神から授かった加護は「狂いなき手」——狙った寸法を寸分たがわず出せる手だ。だがこの街に来たばかりの頃、ゲンは老親方に半人前と笑われていた。「寸法どおりは、半人前だ」。手ひとつで生きるドワーフたちに、加護で図面を写すだけの新入りと侮られて。
始まりは、鳴らない髪飾りだった。老親方が壊した亡き妻の形見を、ゲンは加護で完璧に復元する。なのに、仕込まれた鈴が鳴らない。寸法はどこも合っているのに——。図面には決して書かれない「人のための、たった一本の狂い」。それを人間の手で探り当て、加護で永久に留めたとき、半人前は、ドワーフの誰にもできない唯一の技を手にする。狂いのない手が「狂い」を覚え、街一番へ成り上がる。手仕事の見え方が少し変わる、心温まる読み切りです。