あらすじ
帝国史上ただ一人、七つの《環》を持って生まれた第三皇子カイル。
誰もが彼を、最強の魔導士になると信じた。
だが、その腕には魔力へ命令を与える《紋様》が一つもなかった。
炎も、雷も、治癒魔導さえ使えない――《紋なし》。
それでもカイルの瞳には、あらゆる魔導の構造、発動経路、隠された継ぎ目が見えていた。
その力を恐れた帝国は、十歳の彼から皇子の名を奪い、六年間にわたって人体実験を続ける。
逃亡したカイルを待っていたのは、救いではなかった。
「人格保全は不要。右腕と脳髄だけを回収せよ」
追手に追い詰められ、死を覚悟した彼の前へ現れたのは、帝国からこぼれ落ちた異端者たち――異能傭兵団《灰冠》だった。
魔導を喰らう大剣を振るう女団長。
雷を素手で砕く、滅ぼされた鬼族の少女。
死者の武器を呼び出す、無口な少女。
他人の傷と痛みを引き受ける、罪深き元異端審問官。
彼女らは強い。
けれど、誰も完全ではない。
過去の罪を背負い、互いを赦せないまま、それでも同じ黒旗の下で戦っていた。
攻撃魔導を一つも持たないカイルは、そんな彼らの“眼”となる。
カイルが敵の弱点を見つけ、仲間が自分の意思で戦い、全員が代償を負って勝利する。
だが、国境の向こうで彼を待つ「救出者」もまた、カイルの七環を必要としていた。
帝国へ戻れば、人間ではなく実験材料。
西方へ渡れば、多くの命を救うための兵器。
そして灰冠と歩けば、仲間まで帝国に追われることになる。
誰かを救うためなら、その人の選択を奪ってもよいのか。
役に立てなければ、人は生きていてはいけないのか。
これは、世界を滅ぼせる力を得る物語ではない。
何も命じることのできなかった少年が、傷だらけの仲間たちとともに、自分の未来を自分で選び取る物語。
黄金の王冠を奪われた皇子は、やがて――灰に焼けた王冠の下へ、自らの名を置く。