あらすじ
刺繍の出来映えは、いつも妹の名前で語られてきた。
その針を実際に動かしていたのは、いつも姉のほうだった。
家族のためだから、と言われれば、そういうものかと思ってきた。
礼を言われたことは、数えるほどしかない。
けれど今度の舞台は、これまでとは違う。
王室が主催する、大きな披露の場だった。
確かな目を持つ人間が、大勢その場に集まる。
エルシーは、いつものように手を貸すべきか迷っていた。
積み重ねてきた技術には、他の誰にも出せない癖がある。
その癖は、隠しても消えるものではない。
エルシーが静かに決めたことは、まだ誰にも知られていない。
針を持つ手は、今度も動くのだろうか。
それとも、もう動かないのだろうか。