あらすじ
登場人物の紹介とあらすじ
i)登場人物の紹介
■イスア・レイヴァン/四十七歳
元王国特殊部隊《灰狼隊》隊長。現在は都市公認の魔物処理人。
酒場のつけを溜め、料理を焦がし、報告書を提出しない生活破綻者。しかし人命が懸かる場面では、地形や敵の性質、負傷者の状態を瞬時に把握し、最も犠牲の少ない判断を下す。
十二年前に六十三人の部下を残して地下要塞を爆破した過去を背負い、「最後の判断は自分一人ですべきだ」と思い込んでいる。
■カアン・ミレア/十七歳
王立実務学院の舞台道具科に通う少年。
冗談好きで嘘つきだが、経験から学び、道具や知識を別の場面へ応用する能力に優れている。舞台用煙玉、細縄、鋸、滑車などを収めた手製の白竹箱を持ち歩く。
十年前に失踪した母の手がかりを求め、帰還者公園の噴水へ沈めた銀貨を取り戻そうとしてイスアと出会い、勝手に一番弟子を名乗る。
■シュエイルア・ベルン/三十二歳
都市診療院の治療師であり、魔物処理人の監督官。
他者の恐怖や事情を理解しようとする穏やかな女性。ただし、イスアの未提出報告書、診療費、酒代には一切容赦しない。
対立を避けて仲裁を優先しがちだったが、市民の記憶が本人の同意なく奪われると知り、診療院の信用を懸けて告発へ踏み切る。
■ケリク・オルダン/四十九歳
都市守備隊長。イスアの元副官。
規則と自分の判断に固執しやすく、緊張すると笑いが止まらなくなる。十二年前、イスアの撤退命令に背いて負傷兵を救出したことで、イスアと決裂した。
亡くなった六十三人が残した遺書のうち、イスア宛ての最後の一通を今も渡せずにいる。
■スオム・ネレイ/四十五歳
都市評議会直属の首席契約官。
十二年前、イスアが署名した封印契約へ、市民の記憶を代償とする不可視条項を追加した人物。
市民を憎んでいるわけではなく、記憶の喪失を死亡より軽い損害だと判断している。自らの行為が違法であると理解しながらも、都市を救うために必要な選択だったと信じている。
⑤ii)あらすじ
七年戦争の終結から十二年。
石壁都市カルディナで魔物処理人をしているイスアは、帰還者公園の噴水へ潜ろうとする少年カアンと出会う。
カアンが探していたのは、十年前に失踪した母ミレアの名が刻まれた銀貨だった。
銀貨へ触れた瞬間、カアンの持つ古いオルゴールが、十二年前の軍用信号を奏で始める。
調査を進めた二人は、街の地下に巨大魔獣《灰喰らい》が封印されていること、そして噴水へ投げられた一万枚以上の銀貨が、封印を維持する契約の代償にされていることを知る。
契約が更新されれば、銀貨へ願いを込めた市民から最も大切な記憶が奪われる。
だが契約を止めれば、《灰喰らい》が地上へ現れ、八千人以上が命を落とす。
それは、十二年前にイスアが六十三人の部下を犠牲にして街を救ったときと同じ、残酷な二者択一だった。
すべての責任を一人で背負おうとするイスアに対し、カアンたちは第三の道を探そうとする。
母が残したオルゴール。
魔力を通さない白竹箱。
六十三通目の遺書。
劇の次回予告へ隠された契約解除文。
ばらばらだった手がかりが結びつくとき、イスアは若者を守るために遠ざけるのではなく、真実と役割を託す決断を迫られる。
これは、大人が残した負債を若者へ支払わせないために、だらしない元隊長と仲間たちが、街の願いそのものを救おうとする物語。