あらすじ
夏休み直前の午後四時四十四分。時間と規則を大切にする図書委員の美奈は、古い図書室で『猿でもわかる! ことばの返しかた』という手作り本を見つける。本に残された「ありがとう」「ごめん」「行かないで」などの言葉は、持ち主へ返されないまま期限を迎えると、紙の小鳥やヤモリ、クラゲといった生き物になって逃げ出してしまう。美奈は、行動派の侑眞、何でも勝負にしたがる研心、慎重な巧真、聞き上手な安代、記録が得意なみなみたちと「ことば返却係」を結成。紙の生き物が示す記憶を手がかりに、言葉の持ち主と本来届けるはずだった相手を探し始める。
やがて、返されなかった「ありがとう」が本人の許可なく校内新聞へ掲載され、保護者向けの共有欄や商店街の掲示板にも転載される。すると、同じ言葉だけを繰り返す白いコピー蝉が大量発生。町では「大丈夫」「ありがとう」といった便利な短文ばかりが使われ、人の名前や本の題名、具体的な気持ちまで白く消え始める。
事件の中心には、青い傘の日に研心へ感謝を伝えられなかった巧真、美奈の昔の手紙を止められなかった元親友のゆみか、そして手作り本を作った光弘と華子の過去があった。善意でも、本人に聞かず言葉を公開してよいのか。謝ることは負けることなのか。許すことは、傷ついた事実を消すことなのか。
最終期限の日曜日午後六時までに、美奈たちは三つの未返却語を本来の相手へ返し、無断掲載された場所すべてへ訂正を届けなければならない。巧真は自分の弱さごと感謝を伝え、光弘と華子は何十年越しの謝罪と「嫌だった」を交わす。そして美奈も、昔の「ずっと親友でいて」ではなく、今の自分の言葉でゆみかに向き合う。言葉は、正しいだけでは届かない。相手を見て、待ち、言い直してこそ返せる――紙の生き物たちが騒動を巻き起こす、友情と仲直りの現代ファンタジー。