あらすじ
歴史の教科書に登場する偉人は、女王、女性将軍、女性哲学者、女性科学者ばかり。
女性が政治を行い、戦争を指揮し、学問を築いてきた世界で、男子高校生の佐伯は、教科書の片隅にしか描かれない男性たちに違和感を抱いていた。
「男は、歴史の中で何をしていたんだろう」
図書室で偶然見つけた一冊の本、『教科書に載らない男たち』。
そこには、偉大な女性たちの陰で子どもを育て、研究を支え、革命に協力しながらも、名前を残されなかった男性たちの記録が綴られていた。
さらに本の最後には、共和国建国の英雄アウレリア・ハートの夫、ノエル・ハートが残したとされる日記の手がかりが記されていた。
教科書では「家庭を支えた夫」とだけ紹介されるノエル。
しかし日記が本物なら、彼は革命の密書を運び、地下印刷所を管理し、アウレリアの演説原稿にも関わっていたことになる。
佐伯は歴史研究部の橘美月とともに、学校の地下文書館に隠された史料を追い始める。
だが、男性史の研究は「社会の分断を招く危険思想」とされ、政府や学校は過去の再検証を警戒していた。
かつて同じ史料を調べた佐伯の父も、何かを知りながら口を閉ざしている。
やがて佐伯たちは、男性の名前が歴史から消えたのは、単に記録されなかったからではなく、意図的に削除されてきた可能性にたどり着く。
しかし真実を追うほど、佐伯は別の危険にも直面する。
埋もれた男性の功績を取り戻そうとする者たちの中には、女性の歴史をすべて否定し、現在の女性を敵視する過激な勢力も存在していた。
歴史の不公正を正すことは、新しい支配を作ることなのか。
名を奪われた者の声を取り戻しながら、誰かの功績を再び消さずに歴史を書き直すことはできるのか。
これは、女性ばかりが歴史の主人公として記録された世界で、一人の男子高校生が「歴史とは誰のものか」を問い始める物語。
歴史に男がいなかったのではない。
男の名前を残す者が、いなかったのだ。