あらすじ

伯爵夫人ヴェロニカ、二十四歳。 祖母の家目当ての縁組で嫁いで四年――婚礼は内輪きり、社交界には一度も出ないまま、「静養」名目で領地の別邸に置かれてきた。 その王都から届いた報せに、彼女は首を傾げる。 曰く、伯爵夫人ヴェロニカ様は流行病にて永眠。葬儀は三日後、王都の大聖堂にて。 ……わたくし、死んだらしい。 夫が、新しい持参金付きの縁談のために、妻を書類の上で片づけたのである。 ならば、訂正はいたしません。ヴェロニカは喪服を仕立てて、自分の葬儀に参列した。 青ざめる夫へ、完璧な弔意で一礼。 「ようございましたわね。故人も、さぞ清々しておりましょう」 閉じた棺の軽さに気づいたのは、葬儀の差配役を任された夫の従弟・バルドゥインただ一人。 「――お戻りに、なりたいですか?」 「いいえ」 「では、わたしは何も見ていません」 かくして彼女は「亡き夫人の遠縁・ヴェラ」として、祖母の遺した家に住み、花市の帳場で働きはじめる。 夫家の無心も、探りも、呼び出しも――お断りの理由は、いつもひとつ。 「あいにく、故人ですので」 死んだ女は、身軽である。 やがて王都には「亡き伯爵夫人の幽霊が花市に出る」との噂が育ち、怯えるのは後ろ暗い者だけ。 弔いの日付しかなかった予定帳には、未来の日付がひとつずつ増えていく。 「ヴェラ嬢。故人に、昼食のご予定は」

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カクヨム
カクヨム2026/07/21
  • 現在の作品夫に書類の上で「病死」させられた奥様は、故人の身軽さで生き直します ~縁談も無心も呼び出しも、あいにく死んでおりますので~