あらすじ
【これは風の女神の化身である『翼王』と、女神を愛し愛された人の王である『片翼』の魂を持つ者と『神鳥』に守護されし常夏の国で生きる者たちの物語】
ウルガ王国の医師であるフィーネは、先の争乱で荒廃した王都の復興事業の一環の救護所の手伝いをしながら王立医術学校の入学式の日を待ちわびていた。
フィーネには幼い頃から大切に想っている親友がいる。
彼――アウィルドリーシャはフィーネにとって生まれて初めての友達になってくれた人であり、かけがえのない恩人であり、憧れと目標だ。
彼は『翼王』という風の女神の化身と言い伝えられている特別な現人神として生まれたこともあり、建国以来最高の名君になるであろうと幼少の頃より多くの者から期待を寄せられていた。
しかしながら、フィーネは『十番目の翼王《アウィルドリーシャ》』という"人間"は本当は皆が思うほど完璧な"現人神"ではないことを知っていたし、彼が抱える多くの問題も気掛かりだった。
そして王都ではいま、『滅びの予言』という奇妙な噂が広まっている。
救護所で患者からもその噂が不安だという話を聞かされ、どうしたものかと物思いに耽った日の晩に、思いがけない来客からとんでもないことを命じられてしまう。
それはこの国で最も尊ぶべき巫《かんなぎ》である『片翼』の"身代わり"として王宮に上がり、現在の国王であるアウィルドリーシャを救ってほしいという内容だった。
フィーネはこの命令を受けるべきか否か迷った。
ウルガ王国には古来より、国に危機迫る数年前に
風の女神の化身たる『翼王』
翼王に仕える巫の『片翼』
風の女神の兄である『神鳥』
が現世にあらわれ人々を救うという言い伝えがあるが、この三者を騙ることはこの国の如何なる重罪よりも赦されざる大罪とされてきた。
嘘が明らかになれば自身はもちろん、身近な人々をも巻き込み、全員が残酷な最期を迎えることになる。
それでもフィーネは幼き日の恩人であり、親友を救いたいと強く決意し、来客の依頼を引き受けることにした。
フィーネは他者の傷を癒すことのできる特別な腕輪を貸し与えられて、意を決して偽の片翼として王宮に上がるが、そこで待っていたのは――
変わり果てたアウィルドリーシャだった。