あらすじ

登場人物の紹介 ■マリサ 二十九歳の女性主人公。元宮廷料理人。料理や食器へ残された悲しみ、疲労、喜びなどの感情を、味や香りとして感じ取る「味写し」の力を持つ。他人を助けることには迷いがない一方、自分の願いを口にすると誰かの負担になると思い込んでいる。亡き叔母の食堂を再開し、黄昏の劇場を救う三百灯の灯主となる。 ■ラドリーゴウ 五十二歳。黄昏の劇場で働く寡黙な用務係。正体は、二十年前に四十八人の子どもを救った元銀翼騎士団副長。修繕、料理、剣術、舞踏、交渉を静かにこなし、相手を助ける前には必ず本人の希望を尋ねる。銀翼を使うたび、大切な記憶を失う。誰かを守るためなら自分が消えてもよいと考えていたが、マリサから「残って生きる責任」を教えられる。 ■クリストファー 五十八歳。黄昏の劇場の支配人。派手な衣装を好む陽気な人物だが、劇場を守るため長年奔走してきた。二十年前は銀翼騎士学校の事務官を務め、救助された子どもたちの手紙と証言を守った。 ■サシャ 三十六歳の舞台監督。現実的で計画性があり、三十日間の修繕日程、稽古、公演当日の灯札回収を統括する。個性の強い劇場関係者をまとめる、実務面の中心人物。 ■ディアシア 三十三歳の市政院建築安全官。マリサの幼なじみ。劇場を救いたいという私情を持ちながらも、安全基準や正式な手続きを曲げない。掘削許可、安全検査、緊急公演許可を成立させる。 ■モウザス 六十一歳。市政院最高顧問であり、元銀翼騎士団長。二十年前の事故で市政の混乱を恐れ、主翼核移送の事実を封印した。現在も安全確保と自己保身を混同して劇場解体を進めるが、最後には記録公開、辞職、被害者への謝罪を選ぶ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あらすじ 宮廷厨房の不正を告発し、後輩をかばったことで解雇された料理人マリサは、十年ぶりに故郷の浮遊都市サーマウントへ帰郷する。 亡き叔母から相続する予定の花灯り食堂は、三百席を備えた黄昏の劇場に併設されていた。しかし、劇場地下の補助心灯炉から危険な残響圧が検出され、市政院は三十日後の劇場解体を決定していた。 解体を回避する方法は一つ。二百九十九人の観客が「守りたい記憶」を灯札へ託し、灯主が自分自身の願いを最後の一灯へ変えることで、三百灯を完成させることだった。 マリサは食堂を再開し、その売上を修繕費へ充てる。彼女を支えるのは、五十二歳の用務係ラドリーゴウ。穏やかで聞き上手な彼は、かつて銀翼騎士団の副長を務めていた。 二十年前、ラドリーゴウは上層区を守れという命令に背き、崩壊する校舎から四十八人の子どもを救助した。しかし、市政院は事故の原因となった主翼核移送を隠蔽し、彼一人へ命令違反の責任を負わせていた。 さらに、彼が使う銀翼魔法には、残響を運ぶたびに「必ず戻りたい場所」として選んだ記憶を失う代償があった。マリサと過ごした最初の二十日間も失われ、二人の間に芽生えた想いは、ラドリーゴウの中から消えてしまう。 それでもマリサは、失われた関係を取り戻そうとはしない。過去の彼を再現させるのではなく、現在の彼と新しい時間を積み重ね始める。 やがて夜泣き嵐の到来が予定より三日早まり、浮遊都市全体が落下の危機に陥る。二十年前の事故記録を公開すれば、封じられていた巨大な残響も解放される。それを運べば、ラドリーゴウはマリサとの新しい記憶まで失いかねない。 記念公演の日、二百九十九人の観客灯がともる中、マリサは初めて自分自身の願いを口にする。 「あなたに消えてほしくない。私の隣で、生きてほしい」 彼女の一灯によって三百灯が完成し、観客全員の帰還目標が銀翼の負荷を分かち合う。ラドリーゴウは一人で犠牲になるのではなく、人々へ助けを求め、マリサの隣へ帰還する。 事故の真相は公表され、劇場は下層区を守る非常用施設として存続。花灯り食堂も営業を再開する。 一か月後、ラドリーゴウは、失った二十日間ではなく、その後に二人で作った時間を理由にマリサへ交際を申し込む。 二人は過去の運命ではなく、現在の互いを選び、壁一枚を隔てた隣同士の暮らしから関係を始める。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/07/20
  • 現在の作品黄昏の劇場の銀翼紳士 ~王都を追われた料理人の私と、五十二歳の元騎士が三百の灯をともすまで~