あらすじ
大学二年生の小宮山琴葉は、大学近くのアパートで一人暮らしをしている。大学生活にも慣れ、離れて暮らす家族や年の離れた弟とはスマートフォンで連絡を取り合う、穏やかな毎日。けれど琴葉は、どこか物足りなさを感じていた。
そんな春の日、いつもと違う帰り道を選んだ琴葉は、古い商店街の一角で不思議な店を見つける。
古書と雑貨が並び、奥には誰でも自由にくつろげる場所があるその店は、近所の人々にとって大切な憩いの場だった。
そこで琴葉が出会ったのは、二十三歳の店長・朝倉澪。落ち着いていながら明るくハツラツとした澪は、亡くなった育ての親である祖父から店を受け継いでいた。
そして澪には、もう一つの顔がある。
それは、客が持ち込む「大切なもの」を修理すること。
古い時計、壊れたアクセサリー、音の鳴らないオルゴール――。店には今日も、それぞれの思い出が詰まった品が持ち込まれる。
初めは澪を「店員さん」と呼んでいた琴葉も、いつしか店に通うようになり、街の人々と出会いながら成長していく。そして二人の距離も、「店員さん」と「お客さん」から、「澪さん」と「琴葉ちゃん」へと少しずつ変わっていく。
一方、誰かの大切なものを直し続ける澪自身にも、どうしても直すことのできない「大切なもの」があった。
物に残された思い出と、人と人とのつながり。
これは、小さな店を舞台に、誰かに助けられた少女がいつしか誰かを助ける人へと成長していく、優しく温かな物語。
今日も店の扉が開く。
誰かの「大切なもの」を抱えた、新しいお客さんを迎えるために。