あらすじ
「帳簿ばかり見ている女は、公爵夫人にふさわしくない」
婚約破棄の舞台で、そう言われました。広間じゅうが笑いました。
でも、わたしは十年間その家の帳簿をつけてきたのです。だから知っています。フェルゼン公爵家の帳簿は、十二年前から一度も合っていません。
前の暮らしで、わたしは会計士でした。顔も名前も思い出せませんが、数字の読み方だけは体に残っています。
魔法は使えません。剣も振れません。できるのは、歩幅を数えること、三度足すこと、端数を見ること、日付の差を取ること。ただそれだけです。
けれど紙は書き直せても、焼けた家は書き直せない。買ったことになっている馬は、どこにもいない。十二年前に辞めた十一人は、どこかで暮らしている。
一行ずつ数えていくと、公爵家の足もとから音が鳴りはじめました。
わたしを笑わなかった人がひとりだけいます。王室監査院の監査卿。人の顔を見ずに、数字のほうを見る人です。
数える女の、静かな監査ざまぁ。