あらすじ
この物語は、領地の土と民を知り尽くしながらも裏方に徹していた子爵夫人が、自らの手で理不尽な運命と戦火を退け、真の領主として立つまでのお話。
「女に爵位は継げない」
帝国法により亡き父の爵位を継げなかったマルティナは、婿に迎えた夫を支え、リーメル子爵夫人として領地の実務を担い続けてきました。
しかし、夫は領地を顧みず、精鋭騎士と軍馬を連れて帝都に滞在していました。
その隙を狙い、異民族の騎馬軍が国境を越えてきます。
家臣たちは、十歳の息子を名目上の領主代理に立てるよう進言します。
そうすれば、マルティナが軍を動かしても、越権の罪を免れられるからです。
しかし彼女は、怯える我が子を責任の盾にすることを拒みました。
「兵を動かすのは私です。ならば、責任を負うのも私であるべきです」
亡き父の鎧をまとい、自らの名で軍旗の下に立つマルティナ。
剣の腕ではなく、誰よりも深く知る領地の地形と、領民を守る覚悟を武器に、彼女は絶望的な防衛戦へ挑みます。
「ただ留守を預かる妻」だった女性が、すべての決断と責任を引き受け、帝国最初の『女子爵』として歴史に名を刻む物語。
――記すのは、わたくし、ラトゥナ・ケートでございます。