あらすじ

机の上に、一冊の古びたノートが置かれている。表紙には几帳面な字で「板中太郎の物語」と書かれていた。書いたのは、板中太郎その人である。 老いた太郎は、自分の人生を「物語」として書くことに決めた。自伝と銘打てば、どうしても事実の羅列になる。しかし物語として書けば、あの日々の手ざわり――半田ごての焦げる匂い、体育館の白いマグネシウムの粉、五大湖から吹きつける凍った風――を、そのまま紙の上に呼び戻せる気がしたのだ。 だから彼は三人称で書く。「私」ではなく「太郎」と。まるで他人の人生を眺めるように。それは彼が生涯をかけて証明しようとした、あの数式の視点でもあった。人の一生を、外側から、ひとつの数式として眺める視点。 ノートの一行目には、こう記されている。 ――ひとりの人間の人生は、ひとつの数式に収まる。 この物語は本当の事である。嘘だと思う読者もいるかもしれないが、本当の事だから仕方ない。 物語は、病弱なひとりの少年から始まる。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/07/20
  • 現在の作品人生の数式 ―― 板中太郎の物語(オリジナル)