あらすじ
「彗星ヴェルデは、十の月ののち、この星に衝突します」——ラジオがそう告げた日から、惑星イオルドの時間は残りわずかになった。
内陸の小さな町に暮らす十六歳のハルは、父の形見の古いカメラを持っている。隣の通りに住むミナは、亡き母が遺した手帳を持っている。ページに並ぶのは、母がついに行けなかった「いつか行きたい場所」のリスト。
終わる前の世界を記録したい少年と、母の代わりにすべての場所へ丸をつけたい少女。二人は汽車に乗り、旅に出る。
魚が消えた海に、それでも毎朝船を出す老漁師のいる港町。終末特需に沸き、夜ごと火の祭りが続く眠らない街。収穫の日が来ないと知りながら、種を蒔く農夫のいる麦の村。法律が死に、腹を減らした子どもたちが盗みを「仕事」と呼ぶ灰色の工業都市。そして、世界の終わりを「信じない」ことを選んだ、時計の止まった街——。
夜空で少しずつ育っていく緑の星に見下ろされながら、それでも人々は今日を生きている。終わりゆく世界を巡る、静かで、あたたかい旅の物語。