あらすじ
王が死んだ。
北の海に面した王国では、王は選挙でも聖別でもなく、一夜の沈黙によって立つ。
次の満月の夜、候補は丘の上の「王の石」にひとり座り、口を利かず、夜明けを待つ。
神々は何も言わない。夜が明けたこと自体が、答えとされる。
石に座るのは長子アウズン――生まれた晩に泣き声を上げ、国じゅうがそれを知っている王子である。
王家の長子は、泣かずに生まれるはずだった。
丘には、石の番がいる。
ケティル。四十年前、徴に担がれて石に座り、折れた男。
以来、名を呼ばれないまま、石の世話だけをして生きてきた。
満月までの十九日、その丘へ、噂が、大首長が、詩人が、帝国の使いが、そして候補の王子が登ってくる。
石の上で何があったのかを、番は誰にも渡していない。
教えられるのは、夜の外側のことだけだ。
魔法は出ない。神は語らない。
一夜の沈黙と、四十年呼ばれない名をめぐる、北の王国のハイファンタジー。
全5話・約1.8万字・毎日更新