あらすじ
修学旅行の京都で、私は幕末に落ちた。文久三年、春。攘夷だ天誅だと物騒な都で、薙刀ひとつで生き延びた私を拾ってくれたのは、後に「新選組」と呼ばれる男たちだった。
伊予弁の槍の師匠・原田左之助。人斬りのくせに妙に優しい人たち。居場所ができかけた頃、私は気づいてしまう。
――この時代では、名前を歴史に書き残された者は、二度と現代へ帰れない。
名簿に載れば終わり。手柄を立てても名乗れない。私は「名無しの弟子」として、素性を隠して生きると決めた。
そんなある日、京の路地で、私は会ってしまった。同じ修学旅行から消えた、ずっと好きだったくせに何も言えなかった橘川隆真。生きていた。よかった。……でも、どうして君は、坂本龍馬の隣にいるの?
彼は薩長側。私は幕府側。今度こそ「好き」を言う前に、私たちは敵になった。
新選組は負ける。龍馬は死ぬ。結末を知っているのに、何も変えられない私たちの、六年間の話をしよう。
――箱館の古い絵に描かれた「名も無き十七歳の少女」。あれが誰なのか、世界で二人だけが知っている。