あらすじ
侯爵家に嫁いだエルシェ・ヴァルニエは、姑から毎日のように「子を産めない役立たず」と責められ、夫からは妻としても人としても顧みられない日々を送っていた。
それでも家のため、夫婦のため、いつか報われる日のために耐えていたエルシェだったが、ある夜、夫の愛人が自分の実妹リュネットだと知る。
さらに実家からも、
「妹の幸せを壊すな」
「お前は姉なのだから譲りなさい」
と突き放され、エルシェの心は完全に折れる。
離縁後、行く場所を失った彼女が流れ着いたのは、雪に閉ざされた北の辺境、ローヴェル公爵領。
そこで彼女は、冷淡な氷の公爵と噂されるセドリック・ローヴェルに拾われる。
最初はただの保護だった。
しかしエルシェは、荒れた帳簿、滞った流通、使用人たちの不満、領民の困窮を見抜き、少しずつ公爵領に春を運んでいく。
雪しかなかった場所に、パンの匂いが戻る。
閉ざされていた屋敷に、笑い声が戻る。
誰にも選ばれなかった女が、今度は自分の手で居場所を作る。
そして冷たいと噂された公爵は、彼女だけに静かに告げる。
「君は拾われたのではない。俺の領に、春を連れてきたんだ」