あらすじ
皇帝に深く愛された皇妃は、必ず死が訪れる。
建国されたばかりのリリエンベルク帝国で、初代皇妃となったセラフィーナは、若き皇帝ジークヴァルトとの穏やかな未来を信じていた。
けれど、夫のそばには幼い頃から仕える皇帝付き侍女マルヴィナがいた。
彼の好みも、体調も、過去も知り尽くし、誰よりも自然に皇帝の私室へ出入りする女。
マルヴィナは忠実な侍女を装いながら、セラフィーナから預かった手紙を隠し、夫婦の伝言を少しずつ変え、二人の間に見えない溝を作っていく。
会いたいという皇妃の言葉は、皇帝へ届かない。
妻を案じる皇帝の思いも、セラフィーナには届かない。
互いを愛しているはずなのに、二人は相手に拒まれていると思い込み、すれ違いを深めていく。
やがてセラフィーナは、侍女への嫉妬から宮廷を乱した冷たい皇妃と見なされ、白百合の離宮へ遠ざけられる。
その一方でマルヴィナは、「皇帝を最も理解する女」として扱われ、ついには名誉を守るという理由で側室へ取り立てられてしまう。
さらに、マルヴィナを慕う若い侍女が、離宮へ毒入りの薬草茶を送りつける。
ジークヴァルトが隠されていた手紙を見つけたときには、すでに遅かった。
セラフィーナは、白百合の庭で夫の腕に抱かれながら命を落とす。
彼女を失いたくないと願ったジークヴァルトは禁忌の魔術に手を出し、セラフィーナの悲しみと自らの後悔を銀冠へ封じ込めてしまった。
それ以降、銀冠を戴いた皇妃たちは、次々と悲しい運命を辿っていく。
復讐相手である皇帝を愛し、彼を庇って凶刃に倒れる第2代皇妃エルヴィーラ。
愛されるほど進行する呪いの病に蝕まれ、出産後に命を落とす第3代皇妃ミレイユ。
歴代皇妃の声を聞く鏡へ記憶と魂を奪われる、第4代皇妃オフィーリア。
生き残る代わりに、愛する夫の記憶から完全に消える第5代皇妃エミリア。
国を救う予知の力を恐れられ、魔女として火刑に処される第6代皇妃カサンドラ。
皇帝と幸せに過ごすほど命を削られ、夫の腕の中で眠る第7代皇妃フィオレンティーナ。
そして最後の皇妃アリアドネは、銀冠を戴いた瞬間、歴代皇妃たちの悲鳴と記憶を受け継ぐ。
毒…
凶刃…
病…
鏡…
忘却…
炎…
そして、幸福そのものが奪う命…
百年以上続いた悲劇を前に、アリアドネは当代皇帝とともに、銀冠の呪いを断ち切ろうとする。
これは、届かなかった言葉と遅すぎた後悔から始まった呪いを、愛された皇妃たちが命をつないで終わらせるまでの物語。
これから登場する皇妃たち
初代皇妃 セラフィーナ
建国されたばかりの帝国で、最初に銀冠を戴いた皇妃。
夫である皇帝ジークヴァルトを心から愛していたが、皇帝付き侍女によって手紙や言葉を奪われ、夫婦の間にすれ違いが生まれていく。
互いに想い合っていたにもかかわらず、夫に信じてもらえないまま白百合の離宮へ遠ざけられ、毒と銀冠の力によって命を落とす。
彼女の悲しみと皇帝の後悔が、すべての呪いの始まりとなる。
第2代皇妃 エルヴィーラ
初代皇妃セラフィーナの姪。
伯母を死へ追いやった皇室へ復讐するため、第2代皇帝オスヴァルトに嫁ぐ。
冷酷な男だと思っていた夫の誠実さに触れ、憎むべき相手を本気で愛してしまう。
しかし、復讐のために嫁いだ過去が二人の間へ影を落とし、最後には皇帝を守るため、自ら刃の前へ立つ。
第3代皇妃 ミレイユ
明るく可憐で、誰からも愛される皇妃。
けれど銀冠の呪いは、皇帝から愛されるほど彼女の体温を奪っていく。
妻を救うため、皇帝はわざと冷たく振る舞うようになるが、ミレイユは愛されなくなったのだと思い込む。
子を産んだあと、最後に夫の本心を知り、その腕の中で静かに命を終える。
第4代皇妃 オフィーリア
聡明で好奇心が強く、銀冠の秘密を最も深く追う皇妃。
閉ざされた部屋で、歴代皇妃の声を映す古い鏡を見つける。
鏡は真実を教える代わりに、彼女の思い出を少しずつ奪っていく。
夫の顔も、名前も、愛した時間も忘れた末、魂だけが鏡の中へ閉じ込められる。
第5代皇妃 エミリア
穏やかで優しく、争いを好まない皇妃。
銀冠の呪いから生き延びる方法を知るが、その代償は、皇妃の座を捨て、愛する夫の記憶から自分の存在を消すことだった。
彼女は名を変え、遠い辺境で生き続ける。
皇帝は妻を忘れてしまいながらも、理由の分からない喪失を抱え、空いた皇妃の席を生涯守り続ける。
第6代皇妃 カサンドラ
未来を予知する力を持つ、誇り高い皇妃。
飢饉や戦争を何度も防ぎ、帝国を救うが、その力を恐れた神殿と貴族たちから魔女として告発される。
皇帝は彼女を救おうとするものの、庇えば内乱が起きる状況へ追い込まれる。
カサンドラは民を守るため、自ら火刑台へ進む。
第7代皇妃 フィオレンティーナ
歴代皇妃の中で、最初から最後まで夫と深く愛し合った皇妃。
側室も陰謀も誤解もなく、二人は互いを信じている。
それでも銀冠は、二人が幸せになるたびに彼女の命を削っていく。
長く孤独に生きるより、短くても愛する夫のそばで生きることを選び、最後は夫の腕の中で眠るように亡くなる。
最後の皇妃 アリアドネ
百年以上続いた悲劇の果てに、銀冠を受け継ぐ最後の皇妃。
冠を戴いた瞬間、歴代皇妃たちの記憶と痛みが一度に流れ込んでくる。
毒、凶刃、病、忘却、炎、そして愛される幸福さえも、彼女の命を奪おうとする。
歴代皇妃の魂を救うか。
自分自身の命を守るか。
アリアドネは当代皇帝ユリウスとともに、愛された皇妃が必ず失われる運命へ立ち向かう。
彼女だけが、悲しみの連鎖を終わらせることができる最後の希望だった。