あらすじ
西暦二〇四一年、世界は「参照崩壊」の脅威に直面していた。
証明済みの定理であっても、一定期間だれにも参照されなければ「偽」へと反転する。
最初の犠牲は、十九世紀の忘れられた補題だった。それが偽になった瞬間、依存していた計算が狂い、三つの巨大な橋梁が崩落した。
数学保守局第三保守課に所属する検証官・間宮律の仕事は、局内で「葬式」と呼ばれている。
それは延命ではない。
余命の尽きた定理から依存関係を安全に切り離し、世界に被害を出さずに看取る手続きだ。
そんな彼に、新たな任務が下る。対象は在野の天才数学者・乙原承の定理。
余命九十日、依存件数二百十七。しかし乙原は三年間、再証明による延命を拒否し続けていた。
依存を一件ずつ外していく間宮は、やがて依存グラフの末端に、登録番号のない奇妙な項目を発見する。
それは定理ではなかった。
間宮律という人間自身の、局員存在証明だった――。