あらすじ

旧軍事国家タテホコで密偵として育てられた青年シェフは、幼い頃から「命令に従う道具」として扱われ、心に深い傷を負う。戦乱の果てに料理人ラルドへ助けられ、新たな名「シェフ」を与えられた彼は、料理人として生き直す道を歩み始める。しかし過去の傷は「魂傷(こんしょう)」という形で残り、古い命令のような幻聴や強い不安、自分を否定する衝動となって、今も彼を苦しめ続けていた。 恋人である魔女アルは、そんなシェフに寄り添い続ける。王であり親友でもあるリーフを救えなかったという後悔が引き金となり、シェフは激しい発作に襲われ、「生きていていいのか」と自らを責め続ける。それでもアルは涙を流しながら彼を抱きしめ、「一人で抱えなくていい」と伝える。その言葉をきっかけに、シェフは初めて治療院を訪れ、自分の苦しみと向き合う決意を固める。 治癒士は魂傷を「心が弱いからではなく、過酷な環境で生き延びた結果、生まれた傷だ」と説明し、薬湯や回復魔法だけではなく、思考の癖を整える心理療法や日常のリハビリを提案する。ラルドやアルをはじめとする仲間たちは、病気だけを見るのではなく「それも含めてシェフ」という姿勢で接し続け、料理を考えたり、新作の献立を書いたり、食堂で働いたりする日常そのものを回復への時間へと変えていく。 発作はすぐには消えない。不安に震える日も、悪夢にうなされる夜もある。しかしシェフは少しずつ、自分で呼吸を整え、応急処置を行い、それでも苦しい時は「助けてくれ」と仲間へ伝えられるようになる。言葉が出ない時には服の袖をつかむ小さな合図でも、仲間は必ず気づき、手を差し伸べてくれる。 傷は消えない。過去も失われない。それでも、人は誰かと生きることを選び直せる。料理を作り、人を笑顔にし、支えられながら一歩ずつ前へ進むシェフの姿を通して、「助けを求めることも、生きる強さの一つである」という希望と生きづらさを伝える。

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カクヨム
カクヨム2026/07/18
  • 現在の作品生きて、と言うために