あらすじ
「セラフィーナ。ここで、お前との婚約を破棄する」
王命による婚約者であるレオンハルト王太子殿下は、国宝である真偽の天秤の前で、そう告げた。
理由は、政務に口を出したこと。
殿下を立てなかったこと。
可愛げがないこと。
そして、王太子妃にふさわしい華がないこと。
しかも殿下の隣には、身重の子爵令嬢アメリアの姿があった。
セラフィーナは、殿下の政務が滞らぬよう、これまでずっと下支えしてきた。
署名も裁可も、最後に行うのは殿下自身。
それでも殿下にとっては、彼女の補佐さえ「自分を無能に見せる越権行為」だったらしい。
婚約破棄の証文が読み上げられる。
そこに記されていたのは、セラフィーナの罪ではなく、殿下の不満ばかりだった。
そして、長く儀礼用と思われていた真偽の天秤が動き出す。
「可愛げがない」は、有責事由ではございません。
王家の正式文書に記すべきは、感情ではなく事実です。
これは、王太子殿下のお気持ちで作られた婚約破棄の証文が、国宝の天秤によって退けられる話。
そして、誰かの名で働いてきた令嬢が、自分の名で生きる場所を見つけるまでの話。