あらすじ
「いいえ。私は、この婚姻を受け入れません」
二国の和平を祝う婚礼で、花嫁クラリスがそう答えたため、祝福の鐘は鳴らなかった。
婚礼前夜、クラリスは自分の書類箱に隠された付帯条項を発見する。そこには、故郷である国境三領と三万人の住民を、花嫁の持参品として隣国へ譲り渡すと記されていた。
しかも十五歳以上の住民には、銀鉱山での労役が課されるという。
大聖堂の鐘が鳴れば、婚姻とそれに付随する契約は〈神聖契約〉として確定し、二度と覆せない。
逃げれば、和平を壊した身勝手な花嫁にされる。部屋で拒んでも、密約は別の形で進められる。
だからクラリスは、両国の王族、諸侯、外国使節が見守る祭壇へ立ち、すべてを明らかにすることを決めた。
だが、密約に押された両国の国王印は本物だった。
やがて、二国の重臣たちによる裏取引と、持ち出された国璽の秘密が暴かれていく。
「あなたが拒んだのは、私との結婚ですか」
「いいえ。私たちの婚姻に、三万人の人生を括りつけた方々を拒みました」
すると、拒絶されたはずの王太子アルフォンスは、クラリスの隣に立った。
「では、私もこの契約を拒みます」
これは、花嫁のたった一度の「いいえ」が、人々の故郷を守り、本当に祝福されるべき未来を選び直す物語。