あらすじ
七夕の夜、夏祭りで待ち合わせをしていた。彼が来るまでの十二分、境内の金魚すくいの前で、短冊を鞄の中に隠したまま待っていた。
人混みの向こうに、彼を見つけた。
隣に、知らない女の人がいた。手をつないでいるわけではなかった。それでも、二人の間には、自分が一度も入れなかった距離のなさがあった。
祭囃子が遠くなった。提灯の色も、屋台の匂いも、届かなくなった。
そこへ、知らない男が声をかけてきた。
慰めではなかった。「じゃあ、見つからんうちに移動した方がええですね」――ただ、それだけを言った。
屋台裏の通路を抜ける途中、鼻緒が緩み、男の持っていた串からタレが跳ねて、浴衣の裾に染みがついた。詫びる男と、橋のたもとで花火を待つことになった。
「大丈夫、とは言いません。大丈夫なわけないんで」
慰めより、その言い方の方が楽だった。
花火が上がるあいだ、二人は名前も知らないまま、ただ並んでいた。
打ち上げが途切れたころ、男は浴衣の染みを見て言った。
「ほな、クリーニング屋行こか」
冗談の顔ではなかった。汚したのは自分だから、自分が持っていく。それだけの顔だった。
短冊を鞄にしまい、私は頷いた。
待っていた人は来なかった。
待っていなかった人が、返事を待っていた。
七夕は、約束された再会を願う夜。
棚ぼたは、思いがけず転がり込む幸運。
その両方が、同じ夜に起きた話。