あらすじ
戦士が背負う大剣。
弓使いの弓と矢筒。
魔道士の杖に、神官の聖典。
果ては占い師の水晶玉まで。
持ち主が望んだ場所に装備を吸着させ、必要なときには簡単に取り外せる魔道具――正式名称、随意装着式魔導吸着具《ピタリウム》。
通称、“例のアレ”。
冒険者なら誰もが一度は使ったことのある世界的ヒット商品は、妖精国にある王立第一魔導具製造所で作られていた。
工場を統括するのは、妖精国唯一の人間である工場長・土黒幸太郎。
その隣には、現場監督にしてエキスパートスタッフへと転職した元女王ティターニア。
そして工場の門前には、今日も現女王アリアが率いるデモ隊が集まっていた。
「一日七分も働かせるなんて、妖精虐待よ!」
「昨日は五分で帰っただろうが!」
「残り二分を今日に繰り越したのよ!」
一日七分労働。
お菓子食べ放題。
昼寝自由。
遅刻しても怒られない。
出勤しなくても、気が向いた日に七分だけ働けば給料が出る。
人間から見れば天国のような職場も、飽きっぽく自由を愛する妖精たちにとっては、魂を鎖で縛るドブラック工場だった。
しかし、この工場には笑い話だけでは済まない過去がある。
かつて妖精は、世界中で「便利な種族」と呼ばれていた。
羽は薬の材料にされ、豊富な魔力を持つ体は、生きたまま魔道具の核へと加工された。
妖精国が他種族と対等な権利を得られたのは、《ピタリウム》という世界に欠かせない商品と、その製造技術を独占するようになったからである。
妖精たちは、もう誰かの道具ではない。
自分たちで道具を作り、自分たちで値段を決め、自分たちの国を守っている。
もっとも、当の妖精たちは今日も七分間の労働に耐えかねて、工場を占拠しようとしているのだが。
これは、世界で最も自由な妖精たちと、世界で最も胃の痛い人間の工場長が繰り広げる、労働争議系ドタバタファンタジー。
そして「便利」という言葉に隠された、妖精たちの歴史を取り戻す物語である。