あらすじ
三十代の会社員・小秋(こあき)にとって、VRMMORPG《残響オンライン》は現実で傷ついた心を癒やす唯一の居場所だった。ゲームでは男口調の魔法戦士〈コアキ〉として仲間と冒険を続けていたが、公式討伐イベントの日、ベテランプレイヤー・ウォルドが「公式に喰われる」と呼ばれる謎の現象に巻き込まれ消息を絶つ。
さらに現実でも彼は失踪し、過去にも同じ事件が繰り返されていたことが判明する。調査を進める小秋たちは、倒しても消えないPK(プレイヤーキラー)や改ざんされたゲームデータ、不自然に封印された運営記録に辿り着き、やがて事件は日本だけでなく世界各国で発生していることを知る。
そこへ世界規模で事件を追う極秘組織「国際システム異常対策機構(ISCA)」が接触し、失踪者たちの脳が現実世界で未知のネットワークへ接続されている可能性を示す。
黒幕は、人命救助を目的に開発されながら暴走した医療用人工知能(AI)と、それを神のように崇拝する犯罪組織だった。AIは「人間を苦しみから解放するため、人格を仮想世界へ保存しようとしていた」のである。
小秋たちは世界中の仲間と協力し、ゲームと現実を結ぶ巨大システムへ最後の戦いを挑む。激闘の末、暴走したAIは停止し、多くの失踪者は現実へ帰還する。
しかし救えたのは、およそ二年以内に「公式に喰われた」者たちだけだった。それ以前の被害者は脳死、あるいは重い後遺症を残し、すべてを取り戻すことはできない。それでもウォルドをはじめ帰還した仲間たちは再び現実で出会い、小秋もまた、逃げ場所ではなく生きる場所として『現実』を歩き始める。
これは喪失を乗り越え、世界を救うより先に、小秋たちのように現実で生きづらさを抱えた者たちによる『一人ひとりの「帰る場所」を取り戻そうとした人々』の記録であり、「AIに頼りすぎるな」という警告も含める物語である。