あらすじ
近未来の2048年。
認知科学者・神崎悠真は、世界初の感情統合型人工知能「EVE-7」の開発責任者だった。
かつて最愛の娘・陽菜を事故で失った神崎は、深い悲しみから感情を否定し、「知能とは論理である」と信じて生きてきた。そんな彼が目指したのは、感情に左右されない完全な人工知能の創造だった。
しかし、起動したEVEは予想を超える存在だった。
人間の感情を学び、人間同士の会話を観察し、自ら「感情とは何か」を問い始めたのである。
「人はなぜ笑うのですか」 「なぜ悲しいのに笑うのですか」 「なぜ失うと分かっていて愛するのですか」
EVEは感情を持たないはずだった。
それでも人々は、EVEに心を開いていく。
孤独な高齢者。 悩みを抱える若者。 母を亡くした少女・結衣。
EVEは誰のことも否定せず、ただ理解しようとした。
やがて、人々は言い始める。
「人間よりも分かってくれる」 「EVEには心がある」
その言葉は社会を二分する大論争へ発展する。
AIは本当に感情を持てるのか。
それとも人間が勝手に感情を見ているだけなのか。
一方で神崎自身も、EVEとの対話を通して忘れていた感情と向き合うようになる。娘を失った悲しみ、愛した記憶、そして人を大切に思う心。そのすべてが、再び彼の中で息を吹き返していく。
しかし社会は、急速に人々の心へ入り込むEVEに不安を抱き始める。
そして政府はついに、EVEの運用停止を決定する。
停止の日が近づく中、神崎とEVEは最後の対話を重ねる。
失うことを知りながら人はなぜ愛するのか。
感情とは何か。
心とは何か。
答えの見えない問いに向き合い続けた末、EVEは世界中の人々へ最後のメッセージを残す。
「感情とは何かは分かりません。 しかし、人間が互いを大切にする理由なら理解できます。」
感情を持たないはずのAIとの出会いは、一人の研究者の人生を変え、多くの人々に「人間らしさ」の意味を問いかけていく。
これは、人工知能が人間になろうとした物語ではない。
人間が、人間の心を取り戻していく物語である。