あらすじ
三十三歳の設計者・高瀬直人は、夢の中で一人の少女を失った。
茶色い短い髪。青い布張りの本。
階段の踊り場。そして、彼女がいつも口にした言葉――「遅い」。
電車の隣席から突然消えた彼女を追い、直人は知らない駅で降りる。
踏切の向こうにその姿を見つけた瞬間、目が覚めた。
ただの夢だったはずなのに、翌朝の通勤電車から、夢で見た踏切が見えた。
廃校になった高校。存在しないはずの古本屋。白紙の残る本『水底の星』。
そのページには、鉛筆で一言だけ書かれていた。
《遅い。》
存在しなかった青春をたどり、言えなかった言葉を届ける、大人の純愛幻想譚。