あらすじ
「偽物だ。――偽物を捕らえろ!」
十七歳の卒業舞踏会、光に呑まれて異世界に落ちた伯爵令嬢イレーネ。
魔物から王都を守り、仲間を葬り、十二年かけて帰還の門を開いた。
――戻った舞踏会では、十二分しか経っていなかった。
十七歳のままの婚約者も、両親も、
二十九歳になり傷だらけで帰った私を、本人と認めてくれない。
抜かれた剣の中でただ一人、消える瞬間を見ていた若い近衛だけが、剣を収めた。
「お預かりして、おりました。――おかえりなさい、イレーネ様」
泣く者から死ぬ戦場で、涙はとうに涸れたはずだった。
なのに、その一言にだけ、私は泣いてしまう。
帰れた。そう思った夜、寝室に戦場の灰が降る。
身体に残った〈帰還門〉が、週にいちど、あちらの残響を吐き出すのだ。
王宮はその力を兵器に欲しがり、救った世界は勇者の帰還を求めてくる。
けれど、私が取り戻したいのは英雄の席ではない。
朝食を最後まで食べる。花を選ぶ。雨音で眠る。誰かに背を預ける。
奪われた「普通」をひとつずつ、この世界に結び直していく。
隣にはいつも、十二分の間に年下になってしまった監視官殿。
「私は、今のあなたしか知りません。ですから、今のあなたの味方です」
十二分と十二年の狭間で、
「おかえり」が「ただいま」になるまでの、回復と恋の物語。