あらすじ
王の四十六番目の子として生まれながら、王城から遠く離れた貧民街で、母とともに庶民同然の暮らしを送ってきた少年ジスラン。だが、疫病が町を襲ったとき、王族たちは民を救うどころか、薬を横流しし、税を搾り取り、多くの命を見捨てた。幼い友人たちと母を失ったジスランは、死んでいった者たちの名前を一人ずつ胸に刻み、決意する。
――この国を変えるため、自分が王になる。
彼の前に立ちはだかるのは、王位継承権を持つ四十五人の兄姉たち。横領、重税、宗教支配、人身売買。善政を装いながら国を腐らせる王族たちの罪を暴き、ジスランは没落貴族の令嬢リディアと手を組み、一人ずつ失脚へと追い込んでいく。
しかし、その動きを面白がるように見つめる者がいた。すべてを知りながら玉座に座り続ける父王ヴァルハルトである。
これは、名もなき者たちの名前を忘れない少年が、知略と覚悟を武器に、腐敗した王家から王位を奪い取る物語。
【登場人物】※以下ネタバレあります
ジスラン・セスブロン(9)
セスブロン王国・第46王子。王城ではなく貧民街で母と暮らしていたため、庶民の生活を知る異色の王子。疫病によって母や友人たちを失い、腐敗した王家を変えるため王位簒奪を決意する。冷静な観察力と頭脳を武器に、兄姉たちの不正を暴き、一人ずつ失脚へ追い込んでいく。誰にも数えられず死んでいった人々の名前を忘れないことを信条としている。
リディア・ヴァレイユ(17)
没落貴族・ヴァレイユ家の長女。父は王宮監査官だったが、ある事件をきっかけに失職し、精神を病んでしまう。法や行政に関する知識が豊富で、ジスランの頭脳を支える相棒。真面目で責任感が強く、幼い弟妹を守るため懸命に生きている。
ヴァルハルト・セスブロン
セスブロン王国国王。民からは名君として慕われているが、その実態は王国のすべてを掌の上で操る冷酷な支配者。息子であるジスランの才能を見抜き、「駒」として利用しようと企む。常に穏やかな笑みを浮かべているが、その本心を知る者はいない。
カリナ・ロシェ
ファレル地区で育ったジスランの幼なじみ。明るく天真爛漫な少女で、いつも皆の輪の中心にいた。疫病によって幼くして命を落とす。ジスランが最後まで名前を忘れないと誓った大切な友人の一人。
ファンジュン・ロシェ
ジスランの幼なじみであり親友。面倒見がよく、年下の子どもたちを気遣う優しい少年。王族であるジスランを特別扱いすることなく、一人の友達として接していた。疫病により命を落とし、その死はジスランに「誰にも数えられず死んでいく人々を救いたい」という強い決意を刻み込む。
ミーナ・ロシェ
ジスランの母。王の側室だったが王城を追われ、ファレル地区でジスランを育てる。貧しいながらも深い愛情で息子を育て、「誰に対しても誇れる人になりなさい」と教え続けた。疫病によって最愛の友人たちを失い、自ら命を絶つ。その死はジスランが王位簒奪を決意する大きなきっかけとなる。
アルデリック・セスブロン
第19王子。疫病対策を担当していた王子。民へ配るはずだった薬を横流しし、私腹を肥やしていた。酒と贅沢を好み、職務への責任感は皆無。多くの命を奪った張本人の一人であり、ジスランが初めて失脚へ追い込む王族となる。
ユリオン・セスブロン
第25王子。税務を担当し、没落したヴァレイユ家の財産を差し押さえた張本人。リディアに婚約を迫り、家の窮状につけ込んで従わせようとする。尊大で執着心が強い一方、権力の後ろ盾を失うと脆い。ローヴェンと癒着して不正に手を染めていたが、ジスランとリディアによってその罪を暴かれ、失脚する。
ローヴェン・セスブロン
第3王子。王国の財務を司る王子であり、穏やかで紳士的な振る舞いから「人格者」と評されている。しかし裏では横領や権力闘争を巧みに操る策略家。笑顔のまま相手を切り捨てる非情さを持ち、王位争いでも最大級の難敵としてジスランの前に立ちはだかる。
セレスティーヌ・セスブロン
第12王女。孤児院を運営し、「慈愛の王女」として国中から尊敬を集めている。しかし、その裏では孤児たちを利用した恐るべき犯罪に手を染めている。優しさと慈悲深さを演じる一方で、人の命を物のように扱う冷酷さを併せ持つ。