あらすじ
「お父さん、またそんな格好してだらしないんだから!」
「ハハ、すまないねぇ……。ズボンを汚して、またマルタさんに怒られそうだ」
冒険者ギルドの窓口で、いつも腰をさすりながらお茶をすすっているグレン。
義理の娘ソフィアに小言を言われる彼の時間は、穏やかで、平和そのものだった。
笑顔の裏で、グレンはいつも祈っている。
かつて自分が救えなかった数多の命。背負った後悔。
――この温かい光の中にいる娘だけは、自分のような「後悔と孤独の塊」にはさせまい、と。
しかし、残酷な運命は、牙を剥いてソフィアの元へ襲いかかる。
突如として発現した、数千の魔獣の群れと、蹂躙を愉しむ災害級魔族。
退路なき決死の防衛戦。ボロボロの盾を構える仲間。死線を覚悟したソフィアは、ただ、遠くの街にいる父親へ「大好きだったよ」と遺言を託そうとしたその時。
世界を敵に回す男の覇気が、20年ぶりに解き放たれる。
絶望の戦場に響く、およそ戦士には似つかわしくない、教師のような怒声。
朱に染まった大剣を手に、伝説の英雄が、愛娘の笑顔を取り戻すために疾走する。
渋いおじさんの生き様と、不器用で、歪なまでに深い親子愛を描いた、魂を揺さぶる人間ドラマ。