あらすじ

フレトゥム海峡同盟の盟主都市マゴラト。西ヤルアラムで最も栄えるこの港湾都市は、三百人の豪商からなる貴族院と、六十六人の元老によって回されている。 ――表向きにはそうなっている。実際にこの都市を裏で回しているのは二人だと言われる。海峡交易の金の流れを握る金融氏族タルペア家の当主と、六百年分の人々の弱みを記憶に溜め込んだ、老いることのない元老オルペス。金を握る者と、秘密を握る者。両者はいつも、冷ややかに互いを牽制し合っていた。 その都市のいちばん風下、貝紫の染料工房が悪臭を垂れ流す最安の区画に、"港のねずみ"と呼ばれる浮浪児達が群れている。 少年ティコは十四で、その束ね役だ。どの倉に何が入り、どの船がいつ出るかなど――大人が見落とす細部を、彼らは誰よりもよく知っている。それが唯一の財産であり、唯一の武器だった。 ある日、兄貴分のフェリオが消える。港のねずみから這い上がり、冒険者になったただ一人の男だった。消える前夜、彼はティコにこう言い残していた。「俺のことは忘れろ。探すな。関わるな。」 ティコはその三つを、すべて破ることに決める。 貝紫《かいむらさき》臭い区画のいちばん底には、上の世界には通じない掟が一つだけある。『家族を見捨てない』それだけだ。 ――だが、彼が引きずり出そうとしている網目の先には、この都市の富と秘密のすべてが結ばれていた。

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小説を読もう2026/07/17
  • 現在の作品"港のねずみ" ティコ