あらすじ
――クシャア。
「えっ」
おれは思わず声を漏らし、咄嗟に小さく咳払いをした。一瞬だけ近くの乗客たちの意識がこちらへ寄ったようだが、それもすぐに電車の揺れと規則正しく響く走行音の中へ霧散していった。
しかし、今のは何だ……?
隣の乗客と肩が軽くぶつかったその瞬間だった。肩のあたりでまるで卵が潰れたような湿った音がしたのだ。
おれは首と上半身を少し捻り、スーツの肩へ目をやった。しかし、特に異常は見当たらない。卵の殻がこびりついているわけでもなければ、染みになっている様子もなかった。
ただの気のせいか……。
「……う」