あらすじ
昼から開いている夜喫茶「片隅」を舞台に、名前も知らない誰かから届く一品と、答えのない悩みを描きます。
『あちらの方から』へようこそ。
昼から開いている、夜喫茶「片隅」。
ここでは、ときどき何も頼んでいない客の前に、一杯の飲み物や一皿の料理が置かれます。
「私、まだ注文してませんけど」
そう言われると、店員はカウンターの奥を指して、こう答えます。
「あちらの方からです」
その先にいるのは、名前も知らない誰か。
少し前まで、自分もひとりで答えを探していた人です。
この物語には、ひとつの正解はありません。
意見が合うこともあれば、最後まで分かり合えないこともあります。
自分を救った言葉が、別の誰かには届かないこともあります。
それでも、ひとりで抱えていた問いを誰かと少しだけ眺めることで、帰る頃にはほんの少し呼吸がしやすくなる。
そんな一話完結型の連作短編を、ここに集めていきます。
店主の宗一郎が料理を作り、息子の朔が客へ届けます。
旅の途中にいる小春から届いた土地の食材は、その日のお通しになります。
朝の始まりに。
眠る前の静かな時間に。
ひとりぼっちだと感じる日に。
「私だけではなかったんだ」と思える一話が、ここにありますように。
夜喫茶ですが、昼から開いています。
どうぞ、空いている席へ。