あらすじ
「英雄は、倒して終わる。おまわりは、返して終わる」
四十年、道の端に立ち続けた交番のおまわり・蓑輪巡一、五十八歳。手柄ひとつ立てられぬまま、子どもを庇って殉職した彼が目を覚ましたのは、剣と魔法の世界だった。
授かったのは、戦うことも癒すこともできない“ハズレ”の力――【現認】。失われたものの在り処だけが視える、ただそれだけの技能。冒険者たちに嗤われながら、それでも彼は、この世界が静かに滅びかけていることに気づいてしまう。人も、物も、名前さえも、ある日ふっと抜け落ちる災厄「零れ」。
人々は信じている。勇者王が化け物を討ち、世界を救ってくれると。だが、その勇者王の顔に、蓑輪は見覚えがあった。かつて自分の訴えを握りつぶし、一人の少女を見殺しにした、あの男の顔だった――。
剣も魔法もいらない。必要なのは、地道な初動と、一行の記録と、拾った品を持ち主のもとへ届ける、それだけの覚悟。勇者が斬り捨ててきた“なかったことにされた者たち”を、たった一人のおまわりが、静かに拾い集めていく。
これは、世界を「倒して」救う物語ではない。
失くしたものを、持ち主に「返して」救う――地味で、あたたかくて、胸のすく、逆転の異世界譚。