あらすじ
「泣くのか。契約に、涙の項目はないぞ」
と夫のヴェインに言われた婚礼の夜から、わたしは二年、白い結婚耐えてきた。
三年間一度も床を共にしなければ、婚姻は無効にできる。
あと一年だけ黙って待ち、誰にも知られずに終わらせるつもりだった。
けれど、両親から預かった五歳の妹フィーが、子供たちの結婚ごっこで夫の声を出した。
「食事は別にする。給仕にもそう伝えておけ」
「泣くのか。契約に、涙の項目はないぞ」
どちらも、誰にも話していない婚礼の夜の言葉だった。
フィーには、物に残った言葉を声色ごと拾ってしまう、不思議な力がある。
わたしが夫の言葉を否定しなかった途端、ヴェインは妹を屋敷から追い出し、こう命じた。
「東棟へは絶対に入れるな」
――あの人は、何を隠しているのだろう。
夫が燃やそうとした書類。
二年前に消えた花婿人形。
妻を黙らせ、家名だけを利用するために残された言葉。
フィーが触れるたび、大人たちが隠していた声が、次々と屋敷へ戻ってくる。
五歳の妹が無邪気に拾う言葉によって、白い結婚の夫が自分の口で破滅していく物語。